経済産業省とNEDOは2026年7月2日、生成AIの開発力強化・社会実装に向けたGENIACにおいて、データエコシステム構築等に関する研究開発テーマ9件を採択したと発表しました。発表では、企業や組織が保有する実データの活用が一層重要になること、データホルダーとAI開発者等が連携し、複数の企業等にまたがるデータを適切に集約・利活用する仕組みを構築・実証することが示されています。

このニュースは、大規模なAI開発企業だけの話に見えるかもしれません。しかし中小企業にとっても、生成AIの使い方を考えるうえで重要な示唆があります。AIツールを導入しても、社内にある業務データが散らばっている、更新責任が曖昧、確認済みかどうかわからない、という状態では、AIに任せられる仕事は限られます。

GENIACが示す「データを使える形にする」視点

GENIACは、経済産業省とNEDOが2024年2月から進めている生成AI開発力強化・社会実装のプロジェクトです。公式サイトでは、基盤モデルの開発に必要な計算資源の調達、データセットの蓄積、ナレッジ共有等を支援し、生成AIの社会実装を促進すると説明されています。

今回のデータエコシステム構築に関する採択では、既存の企業内データの利活用や、新たなデータの構築・拡充を含めて、複数企業にまたがるデータを適切に集約・利活用する仕組みが対象になっています。中小企業がここから読み取るべきなのは、「AIの性能」だけでなく「AIが参照できるデータの状態」が競争力に直結するという点です。

生成AI導入の準備は、最新ツールを探す前に、社内の情報を「探せる、使える、確認できる」状態にすることから始まります。

AI導入前に整えたい3つのデータ

  1. 業務データ
    最初に整えるべきなのは、日々の業務で実際に使っている情報です。問い合わせ履歴、見積書、作業報告、在庫表、商談メモ、マニュアルなどが該当します。重要なのは、すべてを一度に統合することではありません。まずは「どの業務で、どのファイルを、誰が見て判断しているか」を一覧化するだけでも、AIで支援しやすい範囲が見えてきます。
  2. 確認データ
    生成AIの出力は、社内の正しい情報と照合できなければ業務利用しにくくなります。価格表、契約条件、納期ルール、顧客別の注意点、社内承認ルールなど、回答や判断の根拠になる情報を明確にしておく必要があります。最新版の置き場所、更新者、確認日がわかる状態にしておくと、AI活用時の手戻りを減らせます。
  3. 改善データ
    AI活用の効果を判断するには、導入前後を比べる材料が必要です。作業時間、確認待ち件数、差し戻し回数、問い合わせの分類、再対応の有無など、現場で記録しやすい指標を決めます。細かすぎるKPIよりも、週次や月次で見返せるシンプルな記録のほうが、次に自動化すべき業務を判断しやすくなります。

「社内にある」だけではAIに使えない

中小企業では、必要な情報がすでに社内にあることは少なくありません。ただし、それが担当者のPC、メール、チャット、紙の控え、古いExcelに分かれていると、AIに参照させる前に人が探す時間がかかります。生成AIは情報整理を助けますが、元の情報が古い、重複している、責任者が不明な場合、誤った下書きや判断材料を作る可能性があります。

そのため、最初の取り組みは大規模なデータ基盤づくりでなくても構いません。たとえば、問い合わせ対応を対象にするなら、よくある質問、過去回答、例外対応、確認が必要な条件、最終承認者を1か所にまとめます。見積作成なら、商品情報、価格表、過去見積、値引き条件、確認者をそろえます。AIに任せる前に、人が見ても迷わない状態を作ることが実務上の近道です。

DX推進指標ともつながる課題

IPAが公開したDX推進指標の自己診断結果分析レポートでは、企業が目標を達成するには、DXのための経営の仕組みと、その基盤となるITシステムの構築を両輪で進める必要があると説明されています。また、2026年2月のDX推進指標改訂では、データ活用・連携、デジタル人材、サイバーセキュリティなどの要素が取り入れられています。

これは、生成AI導入にもそのまま当てはまります。AI活用は現場の工夫だけでは続きません。どのデータを業務上の正とするか、誰が更新するか、どこまでAIに下書きさせるか、誰が最終確認するかを、経営と現場で決める必要があります。

AI導入の初期テーマは、データが散らばっていて困っている業務から選ぶと、情報整理と自動化の効果を同時に確認できます。

中小企業は小さなデータ整備から始める

GENIACのデータエコシステム採択は、生成AIの社会実装が、モデル開発だけでなく実データをどう集め、使い、循環させるかに移っていることを示しています。中小企業にとっての実務的な受け止め方は、AIツールを入れる前に、業務データ、確認データ、改善データを小さく整えることです。

まず1つの業務を選び、使っている資料を集め、最新版と確認者を決め、改善前の状態を記録します。そのうえで、生成AIに下書き、分類、要約、検索補助を任せる範囲を決めると、導入判断が現実的になります。AI活用の第一歩は、大きなデータ戦略よりも、明日も使う業務情報を迷わず使える状態にすることです。