デジタル庁は2026年8月19日にガバメントAI「源内」の情報を更新し、政府職員が安全・安心にAIを活用できる基盤として、各府省庁への展開を進めていることを示しました。2026年度中に全府省庁の約18万人の政府職員が生成AIを利用可能とする予定で、汎用AIと行政実務用AIの両方を提供する構成です。
同時に、2026年8月25日に更新された第5回先進的AI利活用アドバイザリーボードの議事要旨では、民間実務における「シャドーAI」や、外部パートナーのAI利用状況の把握漏れが議論されています。生成AIは、正式に導入する前から、既存ツールの新機能や個人利用、委託先の作業に入り込みます。中小企業にとって重要なのは、使うか使わないかの二択ではなく、どこで使われているかを把握できる状態にすることです。
社内AI環境は、便利な入口と管理の入口を分けて考える
源内の説明では、対話型チャット、文章作成、要約、校正、翻訳などの日常業務を支援する汎用AIと、行政実務に特化したAIアプリケーションが分けて整理されています。また、シングルサインオンやセキュリティ基準への準拠、利用状況を可視化するダッシュボードにも触れられています。
中小企業が同じ規模の仕組みを作る必要はありません。ただし、考え方は参考になります。全社員が自由に使う入口と、個人情報、顧客情報、契約、見積、採用などを扱う業務用の入口を同じルールで扱うと、確認すべきリスクが見えにくくなります。
点検1: 社内で使われているAI機能を棚卸しする
最初の点検は、社内のAI利用の棚卸しです。社員が直接契約しているAIチャットだけでなく、グループウェア、CRM、会計、採用、デザイン、議事録、検索、メール作成など、既存ツールに追加されたAI機能も対象にします。
第5回アドバイザリーボードでは、AIとして調達していないシステムにアップデートでAI機能が組み込まれることで、自社のAIユースケースを十分把握できないケースがあると指摘されています。これは中小企業でも起きます。担当者が便利だから使っている機能が、会社として許可した情報範囲を超えている可能性があるためです。
棚卸しは難しく始める必要はありません。部署、利用ツール、AI機能の内容、入力している情報、出力の使い道、外部共有の有無、責任者を1行ずつ書くだけで十分です。重要なのは、完璧な台帳を作ることではなく、見えない利用を定期的に更新できる状態にすることです。
点検2: 委託先や外部サービスのAI利用を確認する
2つ目の点検は、外部パートナーのAI利用です。制作会社、士業、採用支援、コールセンター、システム会社、BPO先などが、業務効率化のために生成AIを使うことは自然になっています。しかし、顧客情報や社内資料を渡している業務では、委託先がどのAIサービスに何を入力しているかを確認する必要があります。
アドバイザリーボードでも、サプライヤー管理や見えないAI機能の管理は今後も留意が必要だと整理されています。中小企業の場合、契約書を大きく作り直す前に、まず発注時の確認項目として「生成AI利用の有無」「入力する情報の種類」「再学習への利用可否」「人による確認手順」「事故時の連絡先」を聞く運用から始められます。
AI利用を一律に禁止すると、委託先の実務と合わず形だけの確認になりがちです。禁止よりも、使ってよい作業と使ってはいけない情報を明確にする方が現実的です。たとえば、公開情報の要約や文章の表現調整は許可し、顧客名、個人情報、未公開の売上情報、契約条件は入力しない、といった分け方です。
点検3: 人の確認を「多く入れる」ではなく「適切に置く」
3つ目の点検は、人の確認地点です。AIエージェントや生成AIアプリを導入するとき、すべてに人の承認を入れれば安全に見えます。しかし、確認が多すぎると現場は使わなくなり、結果として管理外のAI利用に戻る可能性があります。
第5回アドバイザリーボードでは、AIエージェントのガバナンスでは権限範囲や参照情報のコントロールが重要である一方、人の確認を過度に求めないことも重要だという意見が示されています。タスクに応じて、人が都度確認する、人が監視する、一定条件では自動化する、といった段階を設ける考え方です。
中小企業では、まず業務を3段階に分けると実装しやすくなります。社内メモや公開情報の整理は担当者確認、顧客に出す文章や金額に関わるものは責任者確認、個人情報や契約判断を含むものはAIの利用範囲を限定する、というように、業務の重要度に合わせて確認の濃さを変えます。
まず作るべきは「AI利用台帳」と「持ち込み禁止情報リスト」
生成AIの活用を進める前に、中小企業が最初に作るべきものは大きな規程ではありません。実務で更新できるAI利用台帳と、AIに入力してはいけない情報のリストです。
AI利用台帳には、利用部署、業務名、利用ツール、入力情報、出力の使い道、確認者、外部サービス利用の有無を記録します。持ち込み禁止情報リストには、個人情報、顧客固有の未公開情報、契約条件、認証情報、未公開の財務情報、取引先から受け取った秘密情報などを明記します。
この2つがあると、新しいAI機能が追加されたときにも「使えるかどうか」を毎回ゼロから議論せずに済みます。使う前に台帳へ追加し、禁止情報に触れる場合は利用方法を変える、という判断ができます。
生成AIの定着は、把握できる小さな利用から始まる
源内の取り組みは政府向けの大規模なAI基盤ですが、中小企業が学べる点は規模ではなく進め方です。安全な利用環境、用途に応じたアプリ、利用状況の可視化、データの整備、他組織への知見共有という考え方は、会社の規模に合わせて小さく取り入れられます。
生成AIは、正式導入を待たずに業務へ入り込んでいきます。だからこそ、社内利用、委託先利用、人の確認地点を見える化し、把握できる範囲から改善することが重要です。最初の一歩は、高度なAI基盤の構築ではなく、今どこでAIが使われているかを確認することです。